ADHD(注意欠陥多動性障害/注意欠如多動症)の症状に強い影響を与えているとされるワーキングメモリーの問題。
そのワーキングメモリーをトレーニングすることで、ADHD症状の改善がみられたと報告する研究も出てくるようになりました。
論文の内容をチェックして、「ワーキングメモリーをトレーニングすること」が本当に役立つモノなのか判断してみます。
ワーキングメモリーを鍛えてADHD症状を改善させることはできるのか?
以前の記事でも書きましたが、ADHDでは、判断、行動をしていく上で重要な役割を果たす、ワーキングメモリーの力が弱いとされています。
(ワーキングメモリーはどうADHD症状に影響するか?トレーニングとは?)
ADHD=ワーキングメモリーが弱い・・・ということは、逆にワーキングメモリーを鍛えることでリハビリになるのではないかという疑問が出てくると思います。
「ワーキングメモリーを鍛えることで、ワーキングメモリーの力を向上させることはできるのか?」
「ワーキングメモリーの力がつけば、「うっかり忘れる」「見落とし、ミスが多い」などに関わってくる、注意、記憶の問題が改善されるのか」
「ワーキングメモリーを鍛えることで、ADHD症状の改善や、日常生活での困りごとは改善されるのか?」
このように、「ワーキングメモリーを集中的に鍛えることで、ADHDの治療につながる」のであれば、トレーニングをやってみたい!と思いますよね。
ということで、「ワーキングメモリーのトレーニング」がADHD治療に効果があるかどうか検証をしていきたいと思います。
そのことについて、コグメド社のホームページで、同社が開発した「ワーキングメモリートレーニング」というトレーニング法を使った治療効果研究のレビューがありましたので、内容をまとめてみて、考察してみました。
ワーキングメモリーのトレーニングの効果はあるのか?
http://www.cogmed-japan.com/kenkyuu-gaiyou
上記リンク先に、コグメド社が開発した「ワーキングメモリートレーニング」の治療効果についての研究結果が載せられています。
そちらの内容を簡単にまとめると・・
① ワーキングメモリートレーニングを使った二重盲検プラセボ対照試験(→詳しい説明は、省略しますが、しっかりした研究デザインで治療効果研究をやっています)で効果あり
②トレーニングすることで、「ワーキングメモリー」「反応抑制」「論理的思考力」などの様々な神経心理テストの点数が上昇
③テストだけじゃなくって、実際のADHD症状も改善している(→「般化」が起こっている。自己評価で改善しているバージョンと、他者評価(保護者や教師)で改善しているバージョン両方あり)
④他の治療法と比較してみる。薬物療法や他の「認知トレーニング」である「抑制テスト」では、ワーキングメモリーテストの改善がみられるのみ。
ワーキングメモリートレーニングは、ワーキングメモリーテストだけでなく、他の認知機能のテスト、ADHD症状の改善もみられることが特徴。
おおう!!・・・なかなか、すごいですね・・(゚Д゚)
②ワーキングメモリーのテスト得点だけでなく、他の認知機能テストの得点も上昇し、
③実際の症状の改善も測定しており(実際の機能改善につながるよ、というデータ)、
④比較研究もしている
と、レビューを見た限りでは、良い結果が出ています。
特に、③、④がすごいなー!と思いまして。
これまでも、精神疾患に対する「認知トレーニング」は開発されています。
「脳の「○○」という機能を鍛えて、認知機能を鍛えよう!症状の改善につなげよう!」というのが、「認知トレーニング」のウリなのですが、これまで弱点が指摘されていましてですね。
例えば・・統合失調症の患者さんの記憶改善を目的に「パソコンで出てきた絵を覚えるぞトレーニング(たとえなので、ネーミングは超適当です(^^;)」をするとします。
患者さんに頑張って、毎日トレーニングをやってもらいます。
で、しばらくすると、トレーニングの効果が出てきて、パソコンのトレーニングの得点が上昇してきます。「やった!覚える力がついてきたのね!」とスタッフたちは喜ぶのですが、
日常生活の場面で、記憶力が向上するかというと、そういうわけではないんです。
日常での、もの忘れが多かったり、人の指示を的確に聞けなかったり・・・という症状はたいして変わらず・・(ToT)
なんのためのトレーニングやねんっっ!!
と、いう風に、
「トレーニングの得点はあがっても、実際の機能を測定するとそれほど機能改善はしていない。あるいはちょっと種類が違う認知機能を測定しても、そこは機能改善していない」という研究結果が多かったのです。
先ほどの統合失調症の例で言うと、『パソコンの記憶トレーニング』をやって、そのソフトの得点は上昇するのですが、実際の生活場面においては、例えば薬を飲み忘れないように、看護士さんから指示されたり、メモを渡されたにも関わらず、相変わらず薬を飲み忘れてしまう行動は変わらない・・・。
同じように、知能検査の短期記憶をはかるテストを受けてもらっても、得点は低いまま・・というような結果が多かったのです。
しかし、上記の論文によると、ワーキングメモリーをきたえることで、ワーキングメモリーと関連する他の情報処理の力を向上させたり、ADHD症状の軽減にもつながるそうです。
ADHDのワーキングメモリートレーニングは大人にも効果があるのか?
期待がもてそうな、「ワーキングメモリーのトレーニング」ですが、大人にも効果があるのでしょうか?
再び、コグメド社のレビュー論文を引用しますと、
クリングバーグのグループは2004年にNature Neuroscienceに発表された論文の研究において、初めて成人の大脳皮質のワーキングメモリーと関連する部位における可塑性(変化し、その状態を 保つ性質)を明らかにしました(Olesen P, Westerberg H, Klingberg T (2004), Increased prefrontal and parietal brain activity after training of working memory. Nature Neurosci 7:75-79)。成人も環境やトレーニングによって脳のネットワークが変化することを脳科学の知見として示した初めての研究といえます。
とあります。
また、高齢者、脳卒中患者さん、脳梗塞患者さんを対象として、
・高齢者では、ワーキングメモリーのテスト、注意の維持のテストが改善。自己評価での認知機能改善がみられた。
・脳梗塞患者さんでは、ワーキングメモリーのテスト、職業上の機能障害の改善がみられた。
という結果が出ています。
ADHD成人を対象とした研究ではないのですが、注意機能やワーキングメモリーに問題を抱える疾患の方の改善がみられたということなので、成人のADHDの方にも効果が期待できるかもしれません。
ワーキングメモリーのトレーニングの効果に疑問があるという研究もある
ここまでの情報を読んでみて、
いいじゃないですか(゚Д゚)コレ!!
っていうか、私も受けたいよっっ!!
と、全力で思ったのですが(笑)。
このような「ワーキングメモリーのトレーニング効果」についての反論もあるんですね。
で、トレーニングの効果を知りたい方はもちろん、トレーニングを検討している、しかも有料のプログラムを検討しておられる方なんかは、こうした反論の記事も念のため目を通されておいた方がよいかと思います。
次回は、反論の記事の紹介と、賛否ある中、どう判断すべきか参考になるように、私の意見もお伝えしようと思います(*^_^*) 次の記事へ続きます♪